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マテリアルズインフォマティクスとTABRASAの特徴について

2021-12-17

近年、材料開発の効率化や従来の知見では得られない材料の開発を実現するために、情報科学の手法を用いた材料開発手法であるマテリアルズインフォマティクス(MI)に注目が集まっています。しかし、日本は欧米と比較してMIの導入が遅れています。その理由の一つに、材料開発をするメーカーが単独で環境を構築するのが困難な点が挙げられます。

NAGASEは、IBMとの共同開発でTABRASA®というMIエンジンを開発して、サービス展開しております。これは、材料開発にMIを適用したいお客様に対して、MI導入のハードルを低くできるサービスです。この記事では、MIそのものとMI用ソフトウェアサービスであるTABRASA®について解説します。

従来の材料開発における二つの手法と課題

従来から広く行われてきた材料開発の手法は、演繹的な手法と帰納的な手法に分類できます。はじめに、それぞれの手法について、どのような特徴があるのか紹介します。次に、材料開発手法や開発環境の変化により生じている課題について確認しましょう。

手法1:構造・組成ベースの演繹的材料開発

演繹的な材料開発の手法では、既に存在している材料を分析することで得られた構造や組成を基に、狙った構造・組成の材料を開発していきます。材料が開発できたら、その材料が持つ機能や特性を明確にします。

これは、順問題を解くともよばれ、論理的に説明可能な理論に基づいて材料開発を進めていくため、企業や大学などの基礎研究で用いられることが多い手法です。また、演繹的材料開発は、構築した理論を元にシミュレーションの開発が進んでおり、効率的に開発を進める環境が整ってきています。

手法2:機能・特性ベースの帰納的材料開発

一方で、構造や組成ありきではなく、材料に求められる機能や特性を明確にし、それを実現できる材料を開発する手法を帰納的材料開発とよびます。演繹的材料開発とは逆のアプローチになるため、逆問題を解くとよばれることもあります。

材料の用途が決まっているため、実際に使われる製品開発に近い、企業の材料開発者などによって用いられる手法です。狙いの機能を実現できると想定される材料を開発し、実験をしてその機能や特性を確認する、ということを繰り返す必要があります。

試行錯誤を繰り返す開発手法のため、結果に対する考察や次の試行内容を決める部分は開発者が担う必要があり、従来はこのアプローチを自動化することが困難でした。

課題1:従来の材料開発プロセスにおける課題

特に企業などで行われる材料開発の場合、材料に求められる特性が明確になっているため、一般的には帰納的な材料開発手法が用いられています。一方で、製品化のスケジュールが決まっているため、試行錯誤をしつつも限られた期間で必要な材料を開発する必要があります。

帰納的開発手法では、想定される材料の構造や組成を実現したとしても、必要な特性を実現できない可能性があります。材料開発者が、組成の検討、材料の開発、それを用いた実験による特性の確認を、狙いの特性が実現できるまで繰り返し行うことが必要です。

このように、試行錯誤を繰り返す中で時間がかかってしまい、当初のスケジュールに材料の開発が間に合わないことがあります。

課題2:材料開発環境の変化による課題

世の中で求められるさまざまな製品が高性能になっており、その製品を構成する材料に対する要求も高度になっています。また、開発競争が激しくなるにつれ、製品のライフサイクルが短縮されており、新しい材料を開発するための開発期間が十分に確保できません。

スケジュール面以外では、ビッグデータの活用など情報技術が発達しており、それらを保有している企業とそうでない企業では差がつきやすくなっています。さらに、活用する材料となるデータや論文数は指数関数的に増えていますが、それらを上手く材料開発に適用できる形に処理するのは簡単ではありません。

このように、さまざまな技術の進歩などにより、材料開発を取り巻く環境は変化しており、それが材料開発における課題になっています。

材料開発の課題を解消できるMIとは

従来の材料開発手法や開発環境の変化によって発生する課題を解決できる可能性がある、MIに注目が集まっています。MIは、さまざまな業界で採用が進んでいる機械学習を、材料開発に活用した手法です。

2011年にアメリカのオバマ元大統領が、国家プロジェクトとして、マテリアル・ゲノム・イニシアチブを打ち出したことがきっかけとなり、MIの技術開発が進んできました。

従来は人間が行っていた試行錯誤のプロセスを、機械学習アルゴリズムが自動で行ってくれるため、材料開発を効率的に行える可能性があります。

材料開発にマテリアルインフォマティクスを導入するメリット

材料開発にMIを導入するメリットは、大きく分けて次の3つです。

  1. 材料開発プロセスの高速化

  2. 複雑なデータの可視化

  3. 新しい知見の獲得

3つのメリットそれぞれについて、解説します。

材料開発プロセスの高速化

企業で一般的に行われている帰納的な材料開発では、狙いの特性が得られるまで試行錯誤を繰り返す必要があり、効率的な材料開発とはいえませんでした。

MIを材料開発に用いることで、もっとも時間がかかっていた試行錯誤のプロセスについて、従来は自動化できませんでしたが、MIでは機械学習アルゴリズムに任せることができます。試行錯誤のプロセスを高速処理することが可能になり、加えて研究者が試行錯誤にかける工数を削減できるため、材料の開発期間を大きく短縮することが可能です。

また研究者は、MIの導入によって削減できた工数を新たな材料開発に向けた検討や仕事を早く切り上げてプライベートを充実させることに使えます。時間の自由度が大きくなり、さらなる成果に繋げたり、ワークライフバランスを向上させたりできるでしょう。

複雑なデータの可視化

新しい材料を開発するためには、大量の基礎データや実験データが必要です。材料に要求される特性が高度化したり、複雑化したりするにつれて、扱う必要があるデータの量も大きくなっています。

コンピュータなどの高性能化によって、大量のデータを取得したり、処理したりすることは問題なくできるようになってきました。しかし、それらのデータを人間が把握するのは簡単ではありません。

特に、変数が多い高次元のデータの意味する内容を、人間がデータだけを見て把握するのは困難です。機械学習は、人が認識しやすい形式に処理できる次元削減にも適用できるため、複雑なデータをシンプルに可視化できます。

データを可視化することで、材料開発に活かせる気づきや新しいアイディアが生まれやすくなるでしょう。

新しい知見の獲得

帰納的な材料開発では、長年材料開発に関わり経験を積んだ開発者の知見に基づいたアイディアを試し、欲しい材料が実現できないか検討することが多いです。しかしながら、従来の知見から外れたアプローチを取ることは少ないため、新たな知見を得られる可能性は高くありません。

MIでは機械学習を用いることで、たくさんのアイディアを創出することができるになります。そこで生まれた知見は、思ってもみなかった新たな発見となることもあるでしょう。

そして、その知見は従来から行われている研究者の知見に基づいたプロセスでは、生み出される確率が低いアイディアと考えられます。このように、新しい知見を生み出せるのも、MIの大きなメリットの一つです。

NAGASEが提供するTABRASA®

NAGASEは、MIを支援するSaaS形式のサービスとして、TABRASA®を提供しています。ここからは、TABRASA®のサービス概要やメリットを紹介します。

TABRASA®のサービス概要

NAGASEはアメリカの大手IT企業であるIBMとの約4年に及ぶ共同開発で、SaaS形式でMIエンジンを提供するサービスであるTABRASA®を開発しました。TABRASA®はAnalyticsとCognitiveの異なる2種類のアプローチを実現できるように構成されており、使用するユーザーのテーマに合わせたMIを実現することが可能です。

SaaSサービス利用の年間使用料をお支払い頂くことで、TABRASA®のサービスを提供すると共に、導入や運用がスムーズに進むようにコンサルティングサポートを行っています。このコンサルティングサポートにより、初めてMIに取り組む方でも、不安を感じることなく自社の目的に合わせて運用していくことができます。

SaaSを活用したMIサービスのメリット

SaaSは、Software as a Serviceの省略表記で、クラウド経由で提供されるサービスのことです。MIサービスの提供形式にはさまざまなものがありますが、TABRASA®をSaaS形式で提供することで、ユーザーには二つの大きなメリットがあります。

一つ目は、サービス自体がクラウド上に存在するため、常に最新版のTABRASA®を利用できる点です。NAGASEはIBMと継続的にサービスの開発をしているため、最新のアップデートされた状態を使い続けることが可能です。

二つ目は、初期投資を抑えられる点です。自社に設備や新しい設備を導入する場合には初期投資が必要になりますが、クラウド上のサービス利用であれば初期投資を抑えながら、スムーズにMIの取り組みをスタートさせられます。

Analytics(逆問題の設計)アプローチ

ここからは、TABRASA®を構成する2種類のアプローチについて確認します。まずは、Analyticsについてです。

Analyticsは逆問題の設計アプローチと考えることができ、数理計算や機械学習を用いて、材料開発における帰納的なアプローチを行います。一般的にMIというとこのアプローチをイメージする人が多いのではないでしょうか?

化学構造式と物性値のデータベースから、狙いの物性値を持つ新規の化学構造を設計します。

Analyticsアプローチの特徴

Analyticsアプローチの特徴としては、次の3点が挙げられます。

1つ目は、逆解析による分子構造の生成が実施可能な点です。2つ目は、GUI上で回帰モデル作成ができ、一気通貫で逆問題の解析ができる点。3つ目は、化合物の特徴量の取り出しがGUI上で可能であり、ユーザーが特徴量を設定することも可能な点です。

ここで、GUIとはGraphical User Interfaceの略で、パソコンやポインティングディバイスで操作できるインターフェースを指します。GUI上でさまざまな操作が可能であるため、プログラミングが不要であり、直感的に操作することができるように構成されています。

Analyticsアプローチの概要

Analyticsアプローチでは、以下の流れで材料開発を進めます。

  1. 特徴量を生成

  2. 回帰モデルの構築

  3. 逆問題の解決

特徴量生成では、化学構造式とその物性値を整理したデータセットを準備する必要があります。このデータセットを元に回帰モデルが構築されるため、どのようなデータセットを準備するかで、その後のプロセスに大きな影響が生じます。

回帰モデル構築では、データセットを元に、環構造や分子量などの特徴量と設定された条件から回帰モデルを構築します。最後に、狙いの物性値を回帰モデルから推定することで、それを実現できる分子構造を出力することが可能です。

このように、Analyticsアプローチでは、構造と物性値のデータセットを元に狙いの物性を持った新たな分子構造を導き出せます。

Analyticsアプローチで解決できる課題と期待できる効果

従来の材料開発では、研究員の能力差によるアウトプットのばらつきや時間的な制約により品質を追及できないといった課題がありました。また、MIの導入にあたっては、求める物性を持つ分子構造の予測やMIの手法を進め方も含め相談したいといったニーズがあります。

TABRASA®のAnalyticsアプローチにより、研究員の能力差に関係なく、求める物性値を持つ可能性のある化学構造を過不足なく選定できます。また、研究者の知見による構造の提案では得られなかった、特徴量の新たな知見を獲得することによる若手研究者の育成を実現します。

さらに時間的な制約に対しても、研究者自身が機械学習MIを実行できる仕組みを構築できるため、物質設計に対して、最大限の効率化が可能です。

Cognitiveアプローチ

Cognitiveは、論文や特許、社内ドキュメントなどの技術文書を、「知識」としてデータ化し、それを新しい知識として活用する新たなアプローチです。自然言語処理により、人間の知識形態を模した知識データベースを構築します。

Cognitiveアプローチの特徴

Cognitiveアプローチの特徴としては、次の3点が挙げられます。

1つ目は、自然言語処理を活用したデータの抽出から、それを登録することによるデータの知識変換が一気通貫で可能な点です。2つ目は、社内の技術資料や社外の論文など、複数のデータソースを連結させて、新しい洞察を得られる点、そして3つ目はすべての操作をGUI上でできる点です。

このように、従来は難しかった非構造情報のデータ化、そこからの知識抽出を、プログラミングを行わずに処理することができます。

Cognitiveアプローチの概要

以下の流れで、Cognitiveアプローチを進めていきます。

  1. 技術論文などの記録媒体をデジタルデータ化

  2. デジタル化した情報から専門データを抽出

  3. 専門データをナレッジグラフとして知識に変換

  4. ナレッジグラフの知識群から今まではなかった新知識を探索

  5. 知識から機械学習を活用して推論と洞察を作り出す

デジタルデータからの専門データ抽出では、抽出精度を向上させるために、文書ごとに構造を設定することが可能です。また、専門分野における専用の辞書を作成することで、必要な知識の関連付けができます。

また、グラフを活用したデータベースを用いることで、視覚的に知識を表現し、情報のつながりをもとに知識の発見や洞察の導出を加速することが可能です。

これらを活用することで、開発テーマの早期抽出や素材候補出し及び、実験計画、実験評価というプロセスの生産性を大きく向上できます。

Cognitiveアプローチで解決できる課題と期待できる効果

従来の材料開発プロセスでは、限られた時間での有望なテーマ選定や得意領域に偏らない幅広い材料選定は困難です。また、ベテランの知識を若手に継承し、育成することは簡単ではなく、課題認識されることが多い領域でした。

Cognitiveアプローチを用いることで、知識をデータベース化できるため、顧客ニーズと照らし合わせて有望なテーマを選定したり、外部データを活用したりすることで、社内にはなかった知見の補完や発想の拡大が可能です。また、それらを元に若手への知識の継承も容易になります。

まとめ

近年は、最終製品の高性能化、製品ライフサイクルの短期化などにより、材料開発の環境は大きく変化し、従来手法のまま材料開発を継続していくのはリスクが大きくなっていると言えます。

今後、有望な材料開発手法としてMIがありますが、企業が独自で取り入れることは簡単ではありません。NAGASEでは、IBMと共同で開発したSaaS形式のサービスであるTABRASA®を提供することで、企業が持つ材料開発において感じているさまざまな課題の解決を実現できます。

初めてのMI導入に興味がある方や不安がある方は、まずはお気軽にNAGASEにご相談ください。

TABRASA製品サイトは以下からお願い致します。
https://tabrasa.jp/

TABRASAサービス・講演のお問い合わせは以下からお願い致します。
【TABRASAの問い合わせリンク】